あおもり見る知る掲示板 ヘルプ

7 / 11 ページ ( 31 ~ 35|51件 )

ふるさとの物語 第174回 東北町東道ノ上(3)遺跡の貝塚 ~1年通して食糧安定~

2020-09-30 14:52

ふるさとの物語 第174回 東北町東道ノ上(3)遺跡の貝塚 ~1年通して食糧安定~  小川原湖周辺には縄文早期以降、貝塚が多数存在する。縄文前期の集落跡である東道ノ上(3)遺跡もその一つ。遺跡は台地上の平場に竪穴住居跡や土坑が多数あり、台地から川に面した急斜面に大量の遺物を含む「捨て場」を伴う。捨て場には土器のほか前期中頃(約6000年前)の貝塚が形成されている。
 貝塚の構成は貝8割、骨2割。貝類はヤマトシジミ・アサリ・ハマグリ・マガキを主体とする。前者2種は県民になじみの貝であるが、後者2種は現在、県内での生息が少なく採集は難しい。この貝塚からは、オキシジミやサルボウガイなどの温暖な地域に生息する貝が複種類出ていることからも、当時の小川原湖域は今より温暖な環境であり、カキも生息できる場所もあったことがうかがえる。
 動物骨はシカ・イノシシが多い。魚骨はスズキ・フグ・マダイなど33種類以上ある。鳥骨は少量であるがハクチョウ・ツル・ワシなど大型の渡り鳥があるのが本遺跡の特徴である。
 これらから、魚介を採る漁労を中心に動物や鳥を狩猟しつつ、季節に応じた食料獲得を行い、一年を通して安定した食料を確保していたことがわかる。貝塚は、当時の環境と人々の営みを知る貴重な資料である。

※画像:東北町東道ノ上(3)遺跡の貝層のはぎ取り(東北町教育委員会蔵)
※この記事は2020年8月20日付の東奥日報朝刊に掲載しました。

投稿者:当館主任学芸主査 杉野森淳子


ふるさとの物語 第173回 墓前飲食        ~亡き人と宴 華やかに~

2020-08-01 14:35

ふるさとの物語 第173回 墓前飲食        ~亡き人と宴 華やかに~  お盆の時期、墓前に供えた食物を親族が分かち合い、和やかに飲食するすがたは、青森に住む私たちにとってはなじみの光景である。とはいえ、近年はオヤツを囓るとか缶ジュースを啜るといった程度で済ませる場合も多くなった。
 いっぽう、今も盛大に墓前での飲食を楽しむ地域がある。平内町の山口集落である。13日の夕方、大きなレジャーシートに保冷ボックス、カセットデッキを携えた多くの家族づれが、村はずれを目指して歩いてゆく。ピクニックかと思いきや、行き先は集落の共同墓地だ。
 一同参拝ののち、宴が始まる。墓前に広げたシートに車座になり、重箱のご馳走をつまみながら老若男女が盃を傾けるさまは、花見の賑やかさだ。「この墓の下に先祖入ってるわげだ。一緒に食べよう、飲もうって。そういう気持ちで(楽しんでいるんですよ)。)」(奈須下繁さん・1944=昭和19=年生まれ)。亡き人との宴は、かつては日が落ちるまで続いたという。
 お盆における墓前飲食の習俗は、青森や秋田などの北東北と、熊本や鹿児島などの九州南部にみとめられる。両地方とも、墓地での華やかな宴に象徴されるように、遺体埋葬地を忌避すべき場所と捉えないこと、屋内よりも墓地という屋外が祭祀の場として重視されること、本仏・新仏・無縁仏を区別してまつらないといった点で、古い時代のお盆のすがたを示していると考えられる。

※画像:墓前に集い飲食を楽しむ山口集落の人々(2019年8月)
※この記事は2020年8月13日付の東奥日報朝刊に掲載しました。

投稿者:当館学芸主査 増田公寧


ふるさとの物語 第172回 北の夏祭り       ~光と影で幻想美表現~

2020-08-01 14:34

ふるさとの物語 第172回 北の夏祭り       ~光と影で幻想美表現~  青森ねぶた祭のクライマックスは、なんといっても8月7日に行われる海上運行であろう。真夏の熱い太陽がようやく沈み、涼しい海風が吹き始めると、花火の音と共に、ねぶた囃子が聞こえてくる。色鮮やかなねぶたの明かりが水面に映し出され、「ラッセラー」のかけ声が響きわたる。なんとも感動的な光景が繰り広げられる。そんな海上運行を思い起こさせる絵がこの「北の夏祭り」である。青森市出身の加藤武夫氏(1930~2012年)によって制作された木版画である。加藤氏は色鮮やかな多色木版画で県内各地を描いてきた。画面右中央部から左上部にかけて、大きい刀を振りかざした勇ましいねぶたの武者人形が、沈んだ青い線で細やかに描かれている。画面中央上部には、海上に浮かんだようなねぶたの灯りが続いていて、賑やかさを感じさせる。手前には青森に夏の到来を知らせてくれるアジサイの白い花が青い光に包まれている。光と影で「北国青森の夏の祭り」を表現した幻想的な一枚である。
 今年は、従来のねぶた祭りがお預けとなり、本当に寂しい限りだが、せめてこの絵で、ねぶた祭りを味わいたい。 

※画像:加藤武夫作「北の夏祭り」(多色木版画 1987年 県立郷土館蔵)
※この記事は2020年8月6日付の東奥日報朝刊に掲載しました。

投稿者:当館主任学芸主査 中村 理香


ふるさとの物語 第171回 キンモウゴケの仲間   ~すてきなミクロの世界~

2020-08-01 14:33

ふるさとの物語 第171回 キンモウゴケの仲間   ~すてきなミクロの世界~  木の幹に、丸い小さな集団をつくるコケがある。カラフトキンモウゴケ(樺太金毛蘚)学名Ulota crispa(ウロタ クリスパ)である(写真1)。
 樺太の名があるように寒い地方に多いコケだが、県内では、公園の桜の幹や枝にも生えている。また、金毛と呼ばれるのは、蒴(さく:胞子の入れ物)がかぶった帽に、金色の毛が生えているからである。
 観察を続けると、姿形はカラフトキンモウゴケにそっくりなのに、肝心の金毛がほとんどないコケも見つかる。これは、近似種のエゾキンモウゴケ(蝦夷金毛蘚)学名Ulota japonica(ウロタ ヤポニカ)(写真2)で、よく見ると、乾いたときの葉の縮れ具合に違いがあって、カラフトキンモウゴケの方が縮み方が激しい。そのことは学名(世界で通用する名称)にも表現され、カラフトキンモウゴケのcrispa(クリスパ)は、「しわがある」という意味だ。
 さらに観察を続けてみると、同じような丸い小さな塊をつくるコケがもう一種類あることに気がつく。タチヒダゴケ(立襞蘚)学名Orthotrichum (オルソトゥリクム)consobrinum(コンソブリヌム)(写真3)である。これはUlota (キンモウゴケ属)ではないので金毛はついていない。その代わり、帽には十六本前後の襞(ひだ)があり、おしゃれである。蒴の高さが低いこと、乾いても葉がほとんど縮れないところが、前二種との違いだ。場所によってはこちらの方が多く生え、身近なコケである。
 身の回りには、小さすぎて気づかないものが沢山ある。ルーペ(虫眼鏡)を持ち歩くことで、日頃の散歩も、ステキなミクロの世界との出会いになること請け合いだ。

※画像:①カラフトキンモウゴケ ②エゾキンモウゴケ ③タチヒダゴケ
※この記事は2020年7月30日付の東奥日報朝刊に掲載しました。

投稿者:当館主任学芸主査 太田正文


ふるさとの物語 第170回「ランプを磨く少女」の写真 ~電気がない日常生活~

2020-08-01 14:32

ふるさとの物語 第170回「ランプを磨く少女」の写真 ~電気がない日常生活~  これは、「ランプを磨く少女」の写真である。
 当館の小学生向けの「昔の暮らし」をテーマにした出前授業では、電気が通っていなかった頃の生活を取り上げている。そのなかで、昔、照明に使われていた石油ランプのガラスの内側には黒いすすがたまるので、時々掃除をしなければならなかった、そしてそれは時に子供がやる仕事であった、と説明している。
 この写真が撮影された場所は、三戸郡田子町の水亦(みずまた)集落である。『田子町誌』学校沿革をみると、岩手県境の峠のすぐ手前にある水亦集落の分校と集落の全戸で電灯が灯ったのは昭和37(1962)年12月15日のことであったという。この写真が撮影されたのはその少し前のことである。
 田子町内の他の地区では、所によって違うが、大正中頃くらいから電灯が灯っている所もあったようである。今や電気のない日常生活を経験した人は非常に少なく、このような写真が貴重なものとなっていることは言うまでもない。

※画像:鎌田清衛氏撮影「ランプを磨く少女」1962年6月、青森市・松木屋ホールで開催の北陽会写真展で展示された。
※この記事は2020年7月23日付の東奥日報朝刊に掲載しました。

投稿者:当館学芸主幹 佐藤 良宣